第16回KG-RCSP合同ゼミ

KG-RCSP合同ゼミは,異なる学部の複数のゼミが集い,メンバーの研究発表と外部ゲストの講演を交えた「多様性と類似性の相乗効果」の場です.毎回,ゼミメンバーの発表に加えて,興味深い研究をしておられる 「今,この人の話を是非聴きたい+学生たちに聴かせたい」と思える研究者をお招きして講演もしていただいています.聴講・議論への参加は,ゼミ内外,学部生/大学院生/職業研究者等々を問わず,どなたでも歓迎します.

第16回目となる今回は,センターメンバーが指導するうち大学院生(進学予定者を含む)6名が自身の研究成果や研究計画を発表するとともに,岩谷舟真さん(東京大学)をお招きした講演を行います.

対面のみの開催とします.ご参加に際して事前連絡は必要ありません.ご不明な点は稲増一憲(k-inamasu@kwansei.ac.jp)にお問い合わせください.

【日時】2024年3月6日(水) 14:00-17:45

【場所】関西学院大学西宮上ケ原キャンパス 社会学部202教室

14:00 センター長あいさつ

第1部:ゼミメンバーによる発表

14:05-14:25 武田 拓海(大阪大学人間科学部B4(同大学院人間科学研究科進学予定))
特性自尊心と拒絶の予期が説得的メッセージの受容に及ぼす影響

説得的コミュニケーション研究において、自尊心が低い者への説得効果は先行研究で一貫していない。本研究ではこれを説明する理論として、低自尊心者は他者から拒絶されるのを懸念するというソシオメーター理論に着目した。この理論に基づき、「低自尊心者は拒絶が予期されないときには説得効果が小さく、拒絶が予期されるときには説得効果が大きい」という仮説を立て、拒絶予期の有無を操作する実験でこれを検証した。その結果、仮説は支持されず、高自尊心者・低自尊心者ともに拒絶予期によってリアクタンスの喚起や説得者の好感度の低下が起こり、拒絶予期が説得効果を高めることはないことが示唆された。

14:25-14:45 星野匠映(関西学院大学文学部総合心理科学科B4(同大学院社会学研究科進学予定))
動的環境における意思決定モデルの検討―経験の忘却過程に基づいたベイズ推論モデルの構築―

本研究の目的は、動的環境における意思決定モデルとして経験の忘却過程を表現したベイズ推論モデルの妥当性を検討することである。従来のベイズ推論モデルは事後分布に全ての経験を蓄積するという特徴がある。この特徴によってベイズ推論モデルは変動を伴う環境下における人の推論を捉えることができない。動的環境における適応的な意思決定のメカニズムは、遠い過去の経験を忘却して直近の経験を重視することである。そこで本研究では時間的距離に応じて経験の影響力が低減する過程を数理的に表現することでベイズ推論モデルを拡張する。ベイズ統計モデリングによって、拡張したベイズ推論モデルといくつかの強化学習モデルを比較・評価した。拡張したベイズ推論モデルは従来のベイズ推論モデルでは捉えられなかった動的環境における意思決定を捉えることができた。また拡張したベイズ推論モデルに不確実性回避選好とリスク回避選好を組み込むことで人間の意思決定におけるバイアスを修正し、ベイズ推論モデルが優れた拡張性を持つことを示した。本研究は動的環境における意思決定プロセスの基礎的なモデルを提供することができた。

14:45-15:05 岡田葦生(日本学術振興会特別研究員・関西学院大学大学院社会学研究科D2)
政治を語る資格

政治行動への積極性と関連する主たる変数として、政治関心や政治の重要性といったものが挙げられる。しかし、日本では政治関心や政治の重要性の認知が高い反面、政治行動に対しては消極的という特異的な傾向が観察されている。本研究では、「政治に関わるためにはそれ相応の資格が必要だ」という個人差変数の影響を考慮することでこのパズルの解消を試みる。つまり、政治への関心は高く、その重要性は認識しているものの、政治に関わるためには十分な資質が必要だという価値観が政治行動の抑制に繋がっていると予測する。本報告ではこの政治関与の資格尺度のプレ調査に関する結果を報告する。

15:05-15:25 井上心太(関西学院大学大学院社会学研究科M2)
内集団ひいきにおける意思決定プロセスの検討

本研究の目的は、内集団ひいきに対して理論的に想定される2つの心理過程がどのようなプロセスで働くのを検討することである。内集団ひいきとは、人が自分の所属する集団の他者に対してより協力的・好意的にふるまう行動を指す。先行研究において内集団ひいきは大きく2つの観点から説明されてきた。一方は同じ集団の他者の得られる利得に対して動機づけられるという説明であり、もう一方は同じ集団の他者に協力すれば自分も同じ集団の他者から協力されるという信念によって引き起こされるという説明である。その中で、これら2つの心理過程が両立する可能性が指摘されている(e.g. Nakagawa et al., 2022)。そこで本研究ではそれぞれの心理プロセスを数理モデルによって表現し、人々の意思決定プロセスとしてより妥当なモデルを検討する。本研究では、分配の意思決定を利他性と平等性の二つのパラメータに切り分けることができる武藤(2006)のモデルを基盤とし、二つの心理過程がどのようにパラメータに影響を与えるのかを表現するモデルを複数作成・比較した。そして、実験によって得られたデータに基づくモデル評価の結果、二つの心理過程が条件に応じて排反的に働くこと、利他性だけでなく平等性が内集団ひいきの意思決定において重要な役割を果たすことが示された。

15:25-15:45 李 葎理(大阪大学大学院人間科学研究科M2)
非就業者への自己責任論に対する相対的剥奪の効果

本研究では,相対的剥奪 (他者と比較して不利な状況にあると認識することで生じる不快な体験が非就業者の自己責任論に与える影響を検討した。相対的剥奪感が強い人は,自分よりも立場の弱い人々に対して攻撃的になることが先行研究によって示されてきた。本研究では,シナリオを用いた操作 (研究1,研究2),課題への報酬額を用いた操作 (研究3) という複数の実験的手法を通して,相対的剥奪が非就業状態の原因を当該個人に帰属する傾向を強めるかどうかを検討した。また,3つの研究を通して,操作により急性で喚起された相対的剥奪と,尺度で測定する個人差としての慢性的な個人的相対的剥奪感という違いが,非就業の自己責任論に異なる影響を及ぼすのかに着目した検討も行った (研究1―3)。本研究の結果,いずれの相対的剥奪の操作も非就業の自己責任論へ及ぼす影響は見られなかった。個人差としての相対的剥奪感は非就業者の自己責任論と正の関連をもつことが示唆されたが,サンプルの属性,もしくは尺度呈示のタイミングの違いによっては関連が見られなかった。相対的剥奪の個人差と操作の違い,今後の展望について議論した。

(休憩15分)

16:00-16:30 小林穂波(日本学術振興会特別研究員・関西学院大学文学研究科D3)
人間の視覚情報探索についての視覚採餌課題による探求

人間の行動には、知覚による探索が不可欠である。本研究は、人間が色や形などの視覚特徴に基づいて環境内の情報を探索することを視覚情報探索と呼び、探索の経験と連合学習による視覚情報探索の効率の変化を調べた。これまでの認知心理学における視覚情報探索の研究は、現実世界の表象の中で行われる探索を想定しており、表象内の探索を支える要因が、現実世界の探索をも同様に支えるかどうかは明らかではない。そこで、本研究では、動物が餌を探して食べる行動の理論である最適採餌理論の観点から視覚情報探索を捉えることで、探索主体と環境との相互作用を理解するための新たな枠組みの構築を目指して、2つの研究を実施した。これらの研究結果から、最適採餌理論を利用することで、環境の変化に応じて方略を変容させていく動的なシステムとして視覚情報探索を理解できる可能性を示した。今後、最適採餌理論に基づく同様のアプローチが利用されている意思決定研究や、主体と環境の相互作用の中に人間の心を位置づけるエナクティヴィズムの研究との統合と発展を通して、探索を中心とした新たな認知観の構築が期待される。

(休憩10分)

第2部:招待講演

16:40-17:40 岩谷舟真さん(東京大学大学院人文社会系研究科・助教)
多元的無知と文化:コロナ禍の社会に着目した検討

多元的無知状態とは、集団の1人1人は規範を支持していないが、「他の人は規範を支持しているだろう」と誤って互いに予想して、結果、集団の多くのメンバーが支持しない規範が集団で維持されている状態のことを言う。これまで、日本における相互協調性や男性の育休取得率の低さ、アメリカの大学における飲酒規範など、様々な規範が多元的無知状態で維持されていることが指摘されていた。一方で、多元的無知の文化差については十分検討されていない。本発表では、コロナ禍の日本社会において感染予防に関する規範が多元的無知状態で維持されている可能性を示唆する発表者らの研究結果を紹介し、それをアメリカ社会について論じた先行研究と比較する。最後に、多元的無知状態の維持メカニズムについて、文化や社会環境の差異に着目しながら整理することを目指す。

17:40 初代センター長あいさつ

第15回KG-RCSP合同ゼミ

KG-RCSP合同ゼミは,異なる学部の複数のゼミが集い,メンバーの研究発表と外部ゲストの講演を交えた「多様性と類似性の相乗効果」の場です.毎回,ゼミメンバーの発表に加えて,興味深い研究をしておられる 「今,この人の話を是非聴きたい+学生たちに聴かせたい」と思える研究者をお招きして講演もしていただいています.聴講・議論への参加は,ゼミ内外,学部生/大学院生/職業研究者等々を問わず,どなたでも歓迎します.

第15回目となる今回は,センターメンバーが指導するうち大学院生4名が自身の研究成果や研究計画を発表するとともに,村山綾さん(近畿大学)をお招きした講演を行います.

対面のみの開催とします.ご参加に際して事前連絡は必要ありません.ご不明な点は三浦麻子(asarin@hus.osaka-u.ac.jp)にお問い合わせください.

【日時】2023年8月2日(水) 14:00-18:00(予定)

【場所】大阪大学吹田キャンパス 大学院人間科学研究科本館1Fインターナショナルカフェ(交通アクセス)※関西学院大学ではありませんのでご注意ください※

14:00 センター長あいさつ

第1部:ゼミメンバーによる発表(発表20分,質疑20分)

14:05-14:45 李 葎理(大阪大学大学院人間科学研究科博士前期課程2年)

非就業者への自己責任論に対する相対的剥奪の効果の検討

相対的剥奪とは,人が自身と類似した他者と比較して不満に感じることを指す。この傾向が強い人は,自分よりも立場の弱い人々に対して攻撃的になることが先行研究によって示されてきた。本研究では,相対的剥奪を感じている人が非就業状態の原因を個人的な要因へと帰属させやすいのかどうかを検証するため,相関的研究 (n = 334) と実験的研究 (n = 264) の2つのWeb調査を行った。その結果,相対的剥奪尺度得点の高さは非就業状態の個人的帰属を有意に予測した。しかし,操作された相対的剥奪感は個人的帰属に対して負の影響を示した。人々の慢性的な剥奪感が個人を非難するような原因帰属を助長させる可能性が示唆された。

14:45-15:25 井上心太(関西学院大学大学院社会学研究科 博士前期課程2年)

内集団ひいきの意思決定プロセスに対する数理モデルを用いた検討

人は同じ集団に所属する他者に協力的にふるまう。この行動傾向は内集団ひいきと呼ばれ、数多くの研究が行われてきた。特に実験場面における内集団ひいきは、現実には価値を持たない些細な条件によって参加者を二つの集団に割り当てる最小条件集団パラダイム(以下MGP)を用いて検討されてきた(e.g. 神・山岸・清成, 1996; Tajfel et al., 1971)。しかし、先行研究では、MGPにおける人々の具体的な分配のパターンをどのように変化させるかについては検討されていない。そこで本研究では数理モデルを用いてMGPにおける内集団ひいきを検討する。数理モデルを用いることで、協力行動のデータからはわからない人々の意思決定プロセスを表現することが可能となる。本研究では武藤(2006)のモデルを採用し、分配の意思決定を利他性と平等性の二つのパラメータに切り分ける。実験の結果、MGPにおいて外集団他者を分配の対象とする条件よりも、内集団他者を分配の対象とする条件の方が利他性が高いということが示された。当日では、中川ら(2015, 2019)の行った現実集団を対象とした内集団びいき研究を同様のモデルを用いた分析を行った結果も報告する。

(休憩10分)

15:35-16:15 三木毬菜(関西学院大学大学院社会学研究科 博士前期課程1年)

協力率の異なる他者がいる集団で人はどのように他者への協力期待を更新していくのか―モデルによる検討―

繰り返しのある社会的ジレンマゲーム(Social Dilemma Game: SDG)において、人はある社会的価値志向性に基づいて、また、他者の協力/非協力行動を社会的に学習することを通して自身の行動を決定するとしたモデルに水野・清水(2020)がある。彼らのモデルによると、人の協力行動の決定は、他者の過去の協力の履歴に基づく学習と利得構造から得られる収益に基づく学習に基づくとされる。しかし、水野・清水モデルでは他者全般の協力行動を学習する個人が想定されているので、他者全般の協力率に対する行動を予測する上では有効であるが、特定他者に対する協力行動の推測において人がどのような他者の行動履歴を参照するかについての予測は内包されていない。そこで、本研究では協力率の異なる他者がいる集団において、人がどのような個人を参照し、他者の協力行動に対する期待を更新させているのかをモデルを用いて検討する。

(休憩10分)

第2部:招待講演

16:25-17:55 村山綾さん(近畿大学国際学部准教授)

1. 日本人は何を、なぜ、変えたくないのか?―変化への抵抗とシステム正当化―

経済/ジェンダー格差、政治的イデオロギーによる対立、マイノリティに対する否定的反応といった、さまざまな集団階層や社会的カテゴリーを起因とする集団間葛藤が顕在化している。このような社会集団間の葛藤を低減させるために、個々人の意識や行動に働きかけることももちろん重要ではあるが、法律を含む社会システムを見直し、改善していく必要性も高いと考えられる。しかし一方で、人はたとえ現状の社会システムに問題があり、機能不全を起こしていたとしても、そのことを織り込み済みで“予測可能な世界”を選好することがこれまでの研究で示されてきた(Kay & Jost, 2003)。結果として、社会集団間葛藤を低減させるための社会システムの導入は遅れ、現状の問題がさらに複雑化、深刻化するという状況に陥っているように見受けられる。本発表では、上記のような背景を踏まえつつ、日本人に焦点を当てて行ってきた変化への抵抗、ならびにシステム正当化理論(Jost, 2020)に関わるいくつかの研究を紹介したい。具体的には、日本社会において、どのような変化が受け入れられにくいのか、変化への抵抗と関連する変数はどのようなものかについて取り上げる。また、新型コロナウイルス感染禍における日本の医療システムへの脅威や依存とシステム正当化との関係について検討した研究も紹介する。

2. 3人の子育てと研究生活

2008年に博士号を取得した2ヶ月後に長男を出産、それから約15年…、子育てと研究活動は現在も継続中です。特に子育てに関しては、3人のうち2人が一卵性双生児だったこともあり、なかなかレアな経験をしてきたのではないかと思います。一般化は難しいですが、1つの事例として、3人の子育てと研究活動をなんとか続けてきた(こられた)中で考えたこと、今あらためて振り返ってみて思うことなどを皆様と共有できればと思います。

第 38 回電気通信普及財団賞~テレコム人文学・社会科学賞〜の受賞

第 38 回電気通信普及財団賞にて,社会心理学研究センターに所属する研究者が以下の通り受賞しました。

センター長の稲増一憲(社会学部教授)が,「マスメディアとは何か–「影響力」の正体」』(中公新書)でテレコム人文学・社会科学賞(入賞)を受賞しました.

客員研究員(前センター長)の三浦麻子(大阪大学大学院人間科学研究科)が『ネット社会と民主主義「分断」問題を調査データから検証する』でテレコム人文学・社会科学賞(奨励賞)を受賞しました.

センター所属の大学院生の温若寒と三浦麻子の共著による論文「オンライン脱抑制:構成概念の再考と新たなモデルの提案」(心理学評論65巻1号に掲載)がテレコム人文学・社会科学学生賞(奨励賞)を受賞しました.

こちらで選評をご覧いただけます.

第14回KG-RCSP合同ゼミ

KG-RCSP合同ゼミは,異なる学部の複数のゼミが集い,メンバーの研究発表と外部ゲストの講演を交えた「多様性と類似性の相乗効果」の場です.毎回,ゼミメンバーの発表に加えて,興味深い研究をしておられる 「今,この人の話を是非聴きたい+学生たちに聴かせたい」と思える研究者をお招きして講演もしていただいています.聴講・議論への参加は,ゼミ内外,学部生/大学院生/職業研究者等々を問わず,どなたでも歓迎します.

第14回目となる今回は,センターメンバーが指導するうち大学院生3名が自身の研究成果や研究計画を発表するとともに,難波修史さん(理化学研究所)をお招きした講演を行います.

対面のみの開催とします.ご参加に際して事前連絡は必要ありません.ご不明な点は稲増一憲(k-inamasu@kwansei.ac.jp)にお問い合わせください.

【日時】2023年3月10日(金) 13:25-17:40(予定)

【場所】関西学院大学西宮上ケ原キャンパス 社202教室(社会学部棟 マップ中21番の建物)

13:25 センター長あいさつ

第1部:ゼミメンバーによる発表

13:30-14:10 温 若寒(大阪大学大学院人間科学研究科D1)

Development  of a Chinese Multidimensional Measure of Online Disinhibition and Examination of Cultural Differences Between Japan and China

With the massive growth of Internet users, deviant behavior on the Internet has gradually become a serious social problem in China. Online disinhibition is considered to influence online behavior. This study involved the development of a multidimensional measure of online inhibition (MMOD) to assess the degree of online disinhibition of Chinese Internet users. In Study 1, we translated the Japanese MMOD into Chinese and determined the factor structure and items for a Chinese MMOD through confirmatory factor analysis. Its factor structure and item composition were the same as those of the Japanese MMOD. In Study 2, after confirming measurement invariance across countries, the degree of online disinhibition of Japanese and Chinese users was compared. Finally, we attempted to explain the high scores for online disinhibition in China from the perspective of environmental and cultural characteristics.(発表は日本語で行います)

14:10-14:50 柏原宗一郎(関西学院大学大学院社会学研究科D1)

1vs1の先制攻撃ゲームの意思決定メカニズムの基礎的検討

他者に対する先制攻撃は、個人間の争いだけでなく、紛争や戦争など集団間対立の引き金となりうる。本研究は、人が他者に対し攻撃行動を行うメカニズムを、先制攻撃ゲーム (Simunovic et al., 2013) を用いて検討する。先制攻撃ゲームでは、2人ペアになり、制限時間内にお互い「攻撃」・「防御」・「なにもしない」の3つの選択肢を選ぶ。参加者が合理的なら、お互い「なにもしない」のが最大利得を得られる方法であるが、他者から攻撃を予期するなら「攻撃」や「防御」が最適となる。本研究は、この先制攻撃ゲームをStrategy Methodを用いて実施した。加えて、利他性や平等性などの社会選好を考慮した数理モデルによる分析や、一般的信頼やZero-Sum Beliefといった心理変数との関連も探る。逐次手番の先制攻撃ゲームでは、BZSGや一般的信頼、個人的相対的剥奪と弱い相関が見られた。同時手番型の結果については当日発表予定している。

(休憩10分)

15:00-15:40 中川令実(関西学院大学大学院文学研究科M1)

顔識別における単眼優位性効果のメカニズム

私たちは視覚情報が左右いずれの眼から入力されたか(由来眼;eye of origin)を意識的に認識することはできない.両眼からの神経信号は,視覚経路の初期段階では分離されているが,大脳皮質における視覚処理の初期段階で統合されるためである.しかし,この由来眼の情報がより高次な認知処理に影響することを示唆する知見がいくつか報告されている.例えば,Gabay et al.(2014)は2つの画像が同じ眼に連続して呈示される場合に,異なる目に呈示されるよりも異同判断のパフォーマンスがよくなることを報告している.興味深いことに,この単眼優位性効果は顔画像に対してのみ生じるとされている.本研究の目的は,この顔識別における単眼優位性効果の具体的なメカニズムを明らかにすることであった.ステレオスコープを用いて正立あるいは倒立の顔画像を左右一方の眼に呈示し,連続して呈示された画像が同じ顔か異なる顔かを判断させた.その結果,先行研究と同様に,連続する顔画像が同じであると判断する場合には同じ眼に呈示される方が,顔画像が異なると判断する場合には異なる眼に呈示される方が,より高いパフォーマンスを示した.これは顔画像が正立である場合と倒立の場合の両方において見られた.さらに,モデリングの手法をもちいて,このパフォーマンスの促進がどのような心的プロセスの変化によるものかを検討する

(休憩10分)

第2部:招待講演画像

15:50-17:20 難波修史さん(理化学研究所 情報統合本部心理プロセス研究チーム研究員)

感情研究の概観と感情語用論への移行

発表者は主要な感情に関する理論的立場を4つ紹介する。その骨子を簡単に説明した後、それらの最新理論とそれを支持する方法論を簡単に概観する。さらに言語哲学領域の理論 (言語行為論) と感情を接続することで、感情を多元的に説明することを目指した感情語用論 (Theory of Affective Pragmatics) を紹介する。それらの理論を俯瞰して咀嚼したうえで、発表者がたどり着いた場所は「感情などもういらぬ」という結論であった。本質主義を脱した我々のたどり着く先に「感情心理学」は残らないのか。感情表情の科学が行きつく末を議論したい。

「心理統計学のための数学ワークショップ」の開催

 

関西学院大学社会心理学研究センター主催で、「心理統計学のための数学WS」を開催します。

日時:3月13日(月)~3月15日(水) 9:00~18:00

場所:オンライン(Zoomを用いたリアルタイム講義)

講師:関西学院大学社会学部 清水裕士

目的:

心理統計に欠かせない、統計的検定やサンプルサイズ設計の考え方を、数学的にしっかり理解するために、微分積分から、確率、確率分布などを基礎から手を動かして勉強することを目的としています。

対象者:

講義の対象は心理学を専門とする大学院生や学部生ですが、ポスドクや大学教員の参加も歓迎します。また、すでに数学に詳しい人も、議論に参加していただいたらありがたいです。

講義内容:

講義内容は以下のような感じになります(ただし変更の可能性あり)。
※クリックしたら拡大します

 

申込み:

以下のリンクから申し込みを行ってください。送信したら、Discord参加のためのURLがメールで届きます。当日のZoomリンクや主催者からの連絡は、すべてDiscordを通じて行うので必ず参加してください。

https://forms.office.com/r/kbRfDgSJfw

第29回KG-RCSPセミナー

「相互作用を通じた共有現実の創発を支える行動・認知神経基盤」(黒田起吏氏、東京大学・日本学術振興会

【日時】2023年2月9日(木) 16:00~17:30
【場所】関西学院大学社会学部 社202
【発表者】黒田起吏氏(東京大学・日本学術振興会

【概要】インターネットによって相互作用の機会が増えた結果、何が普通であるかに関する知覚や認知、ひいては規範が新たに形成されている。このように社会的に共有された現実(shared reality)は動的な相互作用から生まれるものの、多くの先行研究は、既存の規範に対して人々がどのように反応するかという受動的な場面を検討するにとどまっている。そこで本研究では行動実験・fMRI実験・オンライン実験を行い、知覚に関するshared realityが生まれる際の認知・神経メカニズムと相互作用過程を調べた。3つの実験にわたり、人々の知覚的反応が相互作用を通じて収束した。また、とくに社会的影響が双方向な場合、知覚的反応を生み出す心理物理関数が安定した。その安定度は視点取得に関する脳活動によって調整された。これらの結果は、双方向の社会的影響が相手への視点取得を促し、行動を生成する心理物理関数のレベルで人々が合意を取れるようになることを示唆している。

 

セミナーは対面で開催します。

誰でも参加可能ですが、もしご参加される場合は清水(simizu706あっとgmail.com)までご一報いただけると幸いです。

 

第13回KG-RCSP合同ゼミ

KG-RCSP合同ゼミは,異なる学部の複数のゼミが集い,メンバーの研究発表と外部ゲストの講演を交えた「多様性と類似性の相乗効果」の場です.毎回,ゼミメンバーの発表に加えて,興味深い研究をしておられる 「今,この人の話を是非聴きたい+学生たちに聴かせたい」と思える研究者をお招きして講演もしていただいています.聴講・議論への参加は,ゼミ内外,学部生/大学院生/職業研究者等々を問わず,どなたでも歓迎します.

第13回目となる今回は,大学院生4名が自身の研究成果や研究計画を発表するとともに,澤幸祐先生(専修大学人間科学部 教授)をお招きして行います.澤先生は大阪大学人間科学部・関西学院大学文学研究科のご出身ですので,この合同ゼミに関わる4ラボといずれもゆかりの深い方です.

【日時】2022年7月27日(水) 13:00-18:00(予定)

【場所】対面:関西学院大学西宮上ケ原キャンパス E102講義室
オンライン:Zoom(要登録)


今回の合同ゼミは対面とオンラインのハイブリッド開催とします.オンラインでの参加には事前登録が必要です.

オンライン参加に際しては,以下のURLから事前登録をお願いします.登録承認後,「第13回KG-RCSP合同ゼミ確認」というタイトルでアクセス要領が書かれた返信メールが届きます.「ここをクリックして参加」をクリックするか,ZoomにアクセスしてミーティングIDとパスワードを入力して参加してください.

ご不明な点は稲増一憲(k-inamasu@kwansei.ac.jp)にお問い合わせください.

https://us06web.zoom.us/meeting/register/tZ0pcOyoqTotHNC14ZUcy868brTz8ttcwUkr
ミーティングID:894 7507 1764


第1部:招待講演

13:00-14:30 澤 幸祐 先生(専修大学人間科学部 教授)アバター

なぜ学習心理学者がベルクソンに興味をもっているのか

これは私見だが、心理学という学問は自然科学と人文学の交差点にある。少なくともいくつかの分野の心理学は、置き換え不可能な個別の生を生きる生物の心的過程を、置き換え可能な物質に対して適用される伝統的な自然科学の作法によって扱おうとしてきた。こうした心理学の自然化のなかで、「どうすれば自然科学の作法に乗るか」についての多くの考察があり、その中には「哲学的決断」とも呼べるような過程が含まれていた。例えば心理測定は「心的状態や機能を数値化する」という作業だが、その背景には「心的状態を元とした集合がある」「元としての心的状態は(場合によっては内観を含む)反応によって分離・比較が可能である」といった、相当に強い仮定についての「哲学的決断」が含まれることがある。こうした「哲学的決断」のおかげで心理学は自然科学的方法を適用可能な場面が増えた一方で、その多くは内在化され、明示的には顧みられないことが多いように見受けられる。
アンリ・ベルクソンは、少なくとも私のような学習心理学者が内在化して前提としている多くの「哲学的決断」に対して、厳しい批判を加えているように見える。「意識に直接与えられたものについての試論」では、当時の心理学者・精神物理学者としてヴントやジェームズ、フェヒナーが取り上げられ、質的対象を量的対象であるかのように扱うことや、時間的な厚みを持ったものを切断して扱うことなどについて様々な議論が行われている。その批判は、実験心理学者からすれば「そういわれましても」という部分があることは認めつつも、ベルクソンの主張を(すべてではないにせよ)組み入れた「哲学的決断」に基づいた「ありえたかもしれない別の心理学」の可能性も感じさせる。そこで本発表では、特に連合学習を中心とした学習心理学領域において、発表者がこれまでに行ってきた研究を題材に、ベルクソン的発想との接合を試みる。

(休憩)

第2部:ゼミメンバーによる発表

14:50-15:30 小林 穂波(関西学院大学大学院文学研究科D2・日本学術振興会特別研究員DC1)

視覚情報探索の学習と最適化に関する最適採餌理論を用いた枠組みの検討

私たちは、常に何かを探索している。その中でも、視覚情報の探索は日常生活に欠かせないもので、視覚探索課題 (visual search task) を使った研究は認知心理学の重要な研究テーマであり続けてきた。最近では、視覚探索課題という限定された環境の中で探索標的を探すという課題を改変し、より日常的な意味での探索という行動の解明に寄与できるように、より現実的で複雑な実験刺激や課題状況を利用しようという機運が高まっている。しかし、刺激や課題を複雑にした場合、何の理論を検証しようとした研究であるのかが混乱しやすく、様々な課題における個々の実験結果が氾濫する事態を招きやすい。そこで、本研究は、動物が餌を探索する行動を扱った最適採餌理論を行動生態学から援用して発展させることで、視覚情報の探索を統一的に理解する枠組みの構築を試みている。本発表では、まず、採餌状況を模した視覚的採餌課題を利用して、標的刺激の特徴を学習し探索を最適化する過程について検証した研究の結果を紹介する。さらに、最適採餌理論を用いた統一的な探索研究の枠組みの構築について、現状を報告し、今後の方向性について議論を行いたい。

15:30-16:10 水野 景子(関西学院大学大学院社会学研究科D2・日本学術振興会特別研究員DC1)

社会的ジレンマ状況における罰の逆効果

皆が自分の利益のために行動すると皆が損してしまう状況は社会に多く存在し、協力しない人を罰する制度が導入されることがある。しかし、一部の研究では、罰制度を導入したあと廃止すると、むしろ罰を導入しなかった場合よりも人が協力しなくなることが報告されている。もしそれが頑健に起こるのであれば、罰の導入には慎重になるべきであろう。そこで本研究では、罰制度のある状況を経験していない統制群よりも罰を取り除いたあとの実験群の協力が下がる現象を罰の逆効果と定義し、罰の逆効果が起こるかどうかに注目した。本研究は、対象となる現象が安定して起こることを確認したのちに次の課題としてそれが起こる心理プロセスを検討するという過程の、現象が再現されるかの確認の段階に位置づけられる。昨年事前登録のうえ行った発表者らの追試研究では、罰の逆効果は再現されなかった。そこで次に、罰の大きさや罰の与え方 (いくら貢献すればよいかの基準を示す罰と最も貢献が少ない人に対する罰) を変えて実験を行う。発表では、上記2つの実験について報告するとともに、十分な参加者数を得る手段として有効なオンライン集団実験についても紹介したい。

(休憩)

16:20-17:00 中越 みずき(関西学院大学大学院社会学研究科D2・日本学術振興会特別研究員DC2)

支援に「値する」こと:Deservingnessヒューリスティックはイデオロギーを超越するか

本研究では,公的支援に関する判断に用いられるヒューリスティックとしてDeservingnessヒューリスティックに注目した。社会保障に関する判断を求められたとき ,人は困窮者の属性情報を手がかりとして利用する。これをDeservingnessヒューリスティックという。Deservingnessヒューリスティックはヒトに備わった生得的性質であり,政治的価値観を超越して機能するとされる。コンジョイント実験の結果,有権者は困窮者の「勤勉さ(怠惰さ)」や「不運さ」にまつわる属性をDeservingnessヒューリスティックとして用いやすいことがわかった。さらに,保守派とリベラル派とで手がかりとする属性に違いがあるかを検討したところ,タイムプレッシャーによる認知制限を設けた場合には,イデオロギーによる差異はみられなかった。本結果は支援に「値する(値しない)」困窮者像がイデオロギーを超越して共有されている可能性を示唆する。
(※本発表はオンラインで行われます)

17:00-17:40 山縣 芽生(大阪大学大学院人間科学研究科D3)

COVID-19流行下における忌避反応の時系列変化: 2020年1月から2021年11月の16波パネル調査に基づく検討

2020年から現在までも続くCOVID-19の世界的流行の中で,人々の心理・行動はどのように変化していったのだろうか。先行研究に基づけば,COVID-19流行の深刻化に伴って,脅威への忌避反応としての感染予防行動や外集団成員への排斥が線形的に増加することが予測される。しかし,2020年1月末から同年3月上旬までの時系列データを分析したYamagata et al.(2021)では予測とは異なる結果が得られ,2020年1月末で既に人々は緊張状態にあったことが明らかとなった。本研究では,その後の社会的状況が深刻化したことや,時系列変化をより構造的に捉えるために,Yamagata et al. (2021)のパネル調査を継続して約2年にわたる16波データでの検討を行った。主要な変数ごとに時系列推移が変化するポイントを検出した結果,第1回目の緊急事態宣言の発令直前から発令期間中(2020年3月~4月)と,感染流行第3波の直前(2020年11月)を起点に変化が見られた。本発表では,変化点前後のトレンドについて個人属性やCOVID-19の感染状況の観点から考察する。

2021年度「社会心理学会若手研究者奨励賞」の受賞

センターに所属する大学院生の岡田葦生さんが2021年度の「社会心理学会若手研究者奨励賞」を受賞しました。

こちらから、研究概要と受賞に際しての講評を読むことができます。

なお、岡田さんは申請時には京都大学大学院法学研究科に所属していましたが、2022年4月より関西学院大学大学院社会学研究科に進学し、社会心理学研究センターの一員となりました。

今後、社会心理学と政治学を架橋する研究を進められることを願っています。

第12回KG-RCSP合同ゼミ

KG-RCSP合同ゼミは,異なる学部の複数のゼミが集い,メンバーの研究発表と外部ゲストの講演を交えた「多様性と類似性の相乗効果」の場です.毎回,ゼミメンバーの発表に加えて,興味深い研究をしておられる 「今,この人の話を是非聴きたい+学生たちに聴かせたい」と思える研究者をお招きして講演もしていただいています.聴講・議論への参加は,ゼミ内外,学部生/大学院生/職業研究者等々を問わず,どなたでも歓迎します.

第12回目となる今回は,学生6名が自身の研究成果や研究計画を発表するとともに,齋藤僚介氏(大阪大学大学院人間科学研究科・日本学術振興会特別研究員)をお招きして行います.

【日時】2022年3月4日(金) 13:30-18:30(予定)
【場所】オンライン(Zoom)での開催


新型コロナウイルスの感染拡大が続いている状況を鑑み,今回の合同ゼミはオンラインで行います.参加には事前登録が必要です.

参加に際しては,以下のURLから事前登録をお願いします.登録承認後,「第12回KG-RCSP合同ゼミ確認」というタイトルでアクセス要領が書かれた返信メールが届きます.「ここをクリックして参加」をクリックするか,ZoomにアクセスしてミーティングIDとパスワードを入力して参加してください.

ご不明な点は稲増一憲(k-inamasu@kwansei.ac.jp)にお問い合わせください.

https://us06web.zoom.us/meeting/register/tZcqdeGuqzkiEtYIKIaecFMU-9CLUgMwPbca
ミーティングID:837 2865 2882

 


第1部:ゼミメンバーによる発表

13:30-14:00 井上 心太(関西学院大学社会学部B4(同大学院社会学研究科進学予定))
認知課題を用いた親密さ測定法の提案

本研究の目的は、認知課題を利用した新たな親密さの測定法を提案することである。従来、親密さを測定するために様々な尺度が開発されてきた。しかし、これらの尺度について、自己評定式尺度であるため測定結果にバイアスが生じること、親密さを測定する尺度の多くは、それが基盤とする理論に基づいた尺度作成がされていないこと、といった問題点が挙げられている。そこで本研究では、Aron, Aron, Tuder, & Nelson(1991)のInclusion of Other in the Self(IOS)の観点から、認知的な連合として親密さを測定する方法を提案することでこの問題を解決する。本研究ではDrift Diffusion Modelを利用し、測定の際に生じる非決定時間や慎重さといったバイアスを取り除き、親密さを表すと考えられる純粋な連合を測定した。三つの研究をおこなった結果、認知課題によって測定された親密さは、質問紙で測定された親密さ得点と有意に相関することが示された。

14:00-14:30 中川令美(関西学院大学文学部B4(同大学院文学研究科進学予定))
視覚統計学習における事象間の共通性の役割

本研究では,視覚的規則性の学習が課題切り替えによってどのように変化するかについて検討した.学習フェーズでは,参加者は呈示されたシーン画像に対して,シーンカテゴリ判断課題またはシーン内に人がいるかどうかを判断する課題を,試行ごとにランダムに切り替えながら行った.このとき刺激系列は,常に連続して出現する2枚ずつの画像ペアから構成されていた.テストフェーズでは学習フェーズにおいて呈示されていたターゲットペアと呈示されなかったフォイルペアについて二択の強制選択課題を行わせ,刺激系列が学習されているかどうかを検討した.その結果,画像間で多くの特徴を共有するペアにおいて,より強く統計学習が生起した.さらに課題切り替えや反応生成のタイミングを変えることで,抽出される特徴が変化した.本研究の結果は,連続する事象間における特徴の共通性が視覚統計学習のパフォーマンスを変化させることを示している.

14:30-15:00 田島 綾乃(関西学院大学大学院社会学研究科M2)
オタクの自己開示の状況と自己呈示方略の検討

オタクと呼ばれるアニメ・マンガ・ゲームを愛好する人々は、年々増加し今や少数派とは言えなくなっている。しかし、オタク趣味を持つことを他者から隠そうとする行動がオタクたちの中に散見される。本研究の目的は、オタクが自己開示を行う状況によって趣味開示の程度は異なるのか、そして自己紹介時における自己呈示方略について検討するものである。調査では、自己紹介場面を不確実性高条件、不確実性低条件 (オタク有)、不確実性低条件 (オタク無) と設定し、各条件においてどの程度オタク趣味を開示するか、web調査実験を行った。結果、すべての条件において趣味の開示得点に差が見られ、不確実性が高い状況において, 周囲にオタクがいない状況と同様, オタク趣味を話す程度が低くなることが示された。また、オタクが自己紹介の場面に遭遇した場合にどのような自己紹介を行うかについて自由記述で回答を求めた。結果、「一般人呈示型」「シグナル型」「様子見型」「オタク開示型」の自己呈示方略を用いることが示された。

(休憩)

15:10-15:40 岡田 葦生(京都大学大学院法学研究科D2(関西学院大学大学院社会学研究科博士後期課程進学予定))
政治忌避意識の心理的構造

近年の日本では投票率の低下が問題視されているが、日本の有権者の政治的消極性は投票参加のみにとどまらない、政治参加全体に及んでいる。こうした傾向の説明の一つに、政治性そのものを嫌う心理からこの現象を捉えようとする立場がある(西澤 2004)。一方で、この政治忌避意識の内容はどのようなものであるか、すなわち人々が具体的に政治のどのような側面を嫌っているかについては十分に解明されていない。本研究では自由回答データに対してトピックモデルを用いることで、この心理の質的多様性を描き出すことを試みた。その結果、政治忌避意識には既存の政治意識概念と重複する要素も多く含まれる一方で、それらとは異なる側面もいくつか含まれることが明らかとなった。本研究の結果は、人々の政治との向き合い方の理解と、それを踏まえた市民の政治的活性化に対して有用な示唆を与えるものである。

15:40-16:10 西辻 好花(神戸女学院大学人間科学部B4(大阪大学大学院人間科学研究科進学予定))
不公正世界信念と公正世界信念

公正世界信念とは、「正の投入には正の結果が伴う」といった、世の中の公正に関する信念である。対して、不公正世界信念とは、「世の中に公正は存在しない」という信念のことを指す。公正世界信念は、心の健康に正の関連があるとされており(Fatima & Suhail, 2010)、不公正世界信念は怒りや防衛的なストレスコーピングと正の関連があるとされている(Lench& Chang, 2007)。Lench & Chang(2007)の研究においては、不公正世界信念を測定する尺度が作成され、公正世界信念と負の関連があることが分かっている。しかし、Maes & Schmitt(1999)の多元的な尺度を用いて、公正世界信念と被害者非難との関連を検討した村山・三浦(2015)の研究においては、公正世界信念の一種である内在的公正世界信念と不公正世界信念は無相関となっている。日本における不公正世界信念と公正世界信念の関係を検討することを目的として、今後の研究を行っていく予定である。

16:10-16:40 李 葎理(追手門学院大学心理学部B4(大阪大学大学院人間科学研究科進学予定))
相対的剥奪と非就業状態の原因帰属との関連-公正世界信念の調整効果の検討-

相対的剥奪とは,人が自身と類似した他者と比較して,奪われていると感じることを指す。この傾向が強い人は,自分よりも立場の弱い人々に対して攻撃的になることが,先行研究によって示されてきた。本研究の目的は,個人的な相対的剥奪(Personal Relative Deprivation: PRD)を感じている人が,非就業状態の原因を個人的な要因へと帰属させやすいのかどうかを検証することであった。また,相対的剥奪と原因帰属との関連における公正世界信念の調整効果についても,併せて検討を行った。オンライン調査会社に依頼し,19歳から34 歳の就業者400名を対象にデータを収集した。分析の結果,PRDの高さは,非就業状態の個人的帰属を有意に予測していた。しかし,PRDと公正世界信念の下位次元の交互作用は有意ではなく,公正世界信念は,PRDと非就業状態の原因帰属の関連を調整しなかった。これらの結果から,人は剥奪を感じたときに,個人を非難するような原因帰属を行うことによって,自己の回復を図る可能性が示唆された。

(休憩)

第2部:招待講演

17:00-18:30 齋藤 僚介 先生(大阪大学大学院人間科学研究科・日本学術振興会特別研究員)
ナショナリズムをめぐる社会問題の実証研究

近年、排外主義的社会運動やインターネット上での差別的書き込み等が社会問題となっている。この問題に対して、とりわけ注目されてきたのがナショナリズムである。一方で、近年のナショナリズムに関する先行研究によれば、ナショナリズムは多様な類型として捉える必要があるとされる。そこで、本研究では、個人の意識としてのナショナリズムの類型と社会的文脈に着目して彼らのナショナリズムを伴う差別的行為の生成メカニズムを明らかにすることを試みた。本研究では、従来の社会運動論をミクロマクロリンクとミクロな理論としての合理的選択理論のもとで再構成した、K. Opp(2009)の社会運動の理論に依拠する。理論的な検討、および社会調査データの計量的な分析の結果、デマゴーグが受容されやすい2つの社会的条件のうち一方が成り立っている社会状況で、ネーションに全面的にアイデンティフィケーションするナショナリズムの持ち主に、権利問題がフレーミングされた場合に、そのうち正義感がある人々が排外主義的集合行為に参加しやすいことがわかった。