第 38 回電気通信普及財団賞~テレコム人文学・社会科学賞〜の受賞

第 38 回電気通信普及財団賞にて,社会心理学研究センターに所属する研究者が以下の通り受賞しました。

センター長の稲増一憲(社会学部教授)が,「マスメディアとは何か–「影響力」の正体」』(中公新書)でテレコム人文学・社会科学賞(入賞)を受賞しました.

客員研究員(前センター長)の三浦麻子(大阪大学大学院人間科学研究科)が『ネット社会と民主主義「分断」問題を調査データから検証する』でテレコム人文学・社会科学賞(奨励賞)を受賞しました.

センター所属の大学院生の温若寒と三浦麻子の共著による論文「オンライン脱抑制:構成概念の再考と新たなモデルの提案」(心理学評論65巻1号に掲載)がテレコム人文学・社会科学学生賞(奨励賞)を受賞しました.

こちらで選評をご覧いただけます.

「心理統計学のための数学ワークショップ」の開催

 

関西学院大学社会心理学研究センター主催で、「心理統計学のための数学WS」を開催します。

日時:3月13日(月)~3月15日(水) 9:00~18:00

場所:オンライン(Zoomを用いたリアルタイム講義)

講師:関西学院大学社会学部 清水裕士

目的:

心理統計に欠かせない、統計的検定やサンプルサイズ設計の考え方を、数学的にしっかり理解するために、微分積分から、確率、確率分布などを基礎から手を動かして勉強することを目的としています。

対象者:

講義の対象は心理学を専門とする大学院生や学部生ですが、ポスドクや大学教員の参加も歓迎します。また、すでに数学に詳しい人も、議論に参加していただいたらありがたいです。

講義内容:

講義内容は以下のような感じになります(ただし変更の可能性あり)。
※クリックしたら拡大します

 

申込み:

以下のリンクから申し込みを行ってください。送信したら、Discord参加のためのURLがメールで届きます。当日のZoomリンクや主催者からの連絡は、すべてDiscordを通じて行うので必ず参加してください。

https://forms.office.com/r/kbRfDgSJfw

第29回KG-RCSPセミナー

「相互作用を通じた共有現実の創発を支える行動・認知神経基盤」(黒田起吏氏、東京大学・日本学術振興会

【日時】2023年2月9日(木) 16:00~17:30
【場所】関西学院大学社会学部 社202
【発表者】黒田起吏氏(東京大学・日本学術振興会

【概要】インターネットによって相互作用の機会が増えた結果、何が普通であるかに関する知覚や認知、ひいては規範が新たに形成されている。このように社会的に共有された現実(shared reality)は動的な相互作用から生まれるものの、多くの先行研究は、既存の規範に対して人々がどのように反応するかという受動的な場面を検討するにとどまっている。そこで本研究では行動実験・fMRI実験・オンライン実験を行い、知覚に関するshared realityが生まれる際の認知・神経メカニズムと相互作用過程を調べた。3つの実験にわたり、人々の知覚的反応が相互作用を通じて収束した。また、とくに社会的影響が双方向な場合、知覚的反応を生み出す心理物理関数が安定した。その安定度は視点取得に関する脳活動によって調整された。これらの結果は、双方向の社会的影響が相手への視点取得を促し、行動を生成する心理物理関数のレベルで人々が合意を取れるようになることを示唆している。

 

セミナーは対面で開催します。

誰でも参加可能ですが、もしご参加される場合は清水(simizu706あっとgmail.com)までご一報いただけると幸いです。

 

第13回KG-RCSP合同ゼミ

KG-RCSP合同ゼミは,異なる学部の複数のゼミが集い,メンバーの研究発表と外部ゲストの講演を交えた「多様性と類似性の相乗効果」の場です.毎回,ゼミメンバーの発表に加えて,興味深い研究をしておられる 「今,この人の話を是非聴きたい+学生たちに聴かせたい」と思える研究者をお招きして講演もしていただいています.聴講・議論への参加は,ゼミ内外,学部生/大学院生/職業研究者等々を問わず,どなたでも歓迎します.

第13回目となる今回は,大学院生4名が自身の研究成果や研究計画を発表するとともに,澤幸祐先生(専修大学人間科学部 教授)をお招きして行います.澤先生は大阪大学人間科学部・関西学院大学文学研究科のご出身ですので,この合同ゼミに関わる4ラボといずれもゆかりの深い方です.

【日時】2022年7月27日(水) 13:00-18:00(予定)

【場所】対面:関西学院大学西宮上ケ原キャンパス E102講義室
オンライン:Zoom(要登録)


今回の合同ゼミは対面とオンラインのハイブリッド開催とします.オンラインでの参加には事前登録が必要です.

オンライン参加に際しては,以下のURLから事前登録をお願いします.登録承認後,「第13回KG-RCSP合同ゼミ確認」というタイトルでアクセス要領が書かれた返信メールが届きます.「ここをクリックして参加」をクリックするか,ZoomにアクセスしてミーティングIDとパスワードを入力して参加してください.

ご不明な点は稲増一憲(k-inamasu@kwansei.ac.jp)にお問い合わせください.

https://us06web.zoom.us/meeting/register/tZ0pcOyoqTotHNC14ZUcy868brTz8ttcwUkr
ミーティングID:894 7507 1764


第1部:招待講演

13:00-14:30 澤 幸祐 先生(専修大学人間科学部 教授)アバター

なぜ学習心理学者がベルクソンに興味をもっているのか

これは私見だが、心理学という学問は自然科学と人文学の交差点にある。少なくともいくつかの分野の心理学は、置き換え不可能な個別の生を生きる生物の心的過程を、置き換え可能な物質に対して適用される伝統的な自然科学の作法によって扱おうとしてきた。こうした心理学の自然化のなかで、「どうすれば自然科学の作法に乗るか」についての多くの考察があり、その中には「哲学的決断」とも呼べるような過程が含まれていた。例えば心理測定は「心的状態や機能を数値化する」という作業だが、その背景には「心的状態を元とした集合がある」「元としての心的状態は(場合によっては内観を含む)反応によって分離・比較が可能である」といった、相当に強い仮定についての「哲学的決断」が含まれることがある。こうした「哲学的決断」のおかげで心理学は自然科学的方法を適用可能な場面が増えた一方で、その多くは内在化され、明示的には顧みられないことが多いように見受けられる。
アンリ・ベルクソンは、少なくとも私のような学習心理学者が内在化して前提としている多くの「哲学的決断」に対して、厳しい批判を加えているように見える。「意識に直接与えられたものについての試論」では、当時の心理学者・精神物理学者としてヴントやジェームズ、フェヒナーが取り上げられ、質的対象を量的対象であるかのように扱うことや、時間的な厚みを持ったものを切断して扱うことなどについて様々な議論が行われている。その批判は、実験心理学者からすれば「そういわれましても」という部分があることは認めつつも、ベルクソンの主張を(すべてではないにせよ)組み入れた「哲学的決断」に基づいた「ありえたかもしれない別の心理学」の可能性も感じさせる。そこで本発表では、特に連合学習を中心とした学習心理学領域において、発表者がこれまでに行ってきた研究を題材に、ベルクソン的発想との接合を試みる。

(休憩)

第2部:ゼミメンバーによる発表

14:50-15:30 小林 穂波(関西学院大学大学院文学研究科D2・日本学術振興会特別研究員DC1)

視覚情報探索の学習と最適化に関する最適採餌理論を用いた枠組みの検討

私たちは、常に何かを探索している。その中でも、視覚情報の探索は日常生活に欠かせないもので、視覚探索課題 (visual search task) を使った研究は認知心理学の重要な研究テーマであり続けてきた。最近では、視覚探索課題という限定された環境の中で探索標的を探すという課題を改変し、より日常的な意味での探索という行動の解明に寄与できるように、より現実的で複雑な実験刺激や課題状況を利用しようという機運が高まっている。しかし、刺激や課題を複雑にした場合、何の理論を検証しようとした研究であるのかが混乱しやすく、様々な課題における個々の実験結果が氾濫する事態を招きやすい。そこで、本研究は、動物が餌を探索する行動を扱った最適採餌理論を行動生態学から援用して発展させることで、視覚情報の探索を統一的に理解する枠組みの構築を試みている。本発表では、まず、採餌状況を模した視覚的採餌課題を利用して、標的刺激の特徴を学習し探索を最適化する過程について検証した研究の結果を紹介する。さらに、最適採餌理論を用いた統一的な探索研究の枠組みの構築について、現状を報告し、今後の方向性について議論を行いたい。

15:30-16:10 水野 景子(関西学院大学大学院社会学研究科D2・日本学術振興会特別研究員DC1)

社会的ジレンマ状況における罰の逆効果

皆が自分の利益のために行動すると皆が損してしまう状況は社会に多く存在し、協力しない人を罰する制度が導入されることがある。しかし、一部の研究では、罰制度を導入したあと廃止すると、むしろ罰を導入しなかった場合よりも人が協力しなくなることが報告されている。もしそれが頑健に起こるのであれば、罰の導入には慎重になるべきであろう。そこで本研究では、罰制度のある状況を経験していない統制群よりも罰を取り除いたあとの実験群の協力が下がる現象を罰の逆効果と定義し、罰の逆効果が起こるかどうかに注目した。本研究は、対象となる現象が安定して起こることを確認したのちに次の課題としてそれが起こる心理プロセスを検討するという過程の、現象が再現されるかの確認の段階に位置づけられる。昨年事前登録のうえ行った発表者らの追試研究では、罰の逆効果は再現されなかった。そこで次に、罰の大きさや罰の与え方 (いくら貢献すればよいかの基準を示す罰と最も貢献が少ない人に対する罰) を変えて実験を行う。発表では、上記2つの実験について報告するとともに、十分な参加者数を得る手段として有効なオンライン集団実験についても紹介したい。

(休憩)

16:20-17:00 中越 みずき(関西学院大学大学院社会学研究科D2・日本学術振興会特別研究員DC2)

支援に「値する」こと:Deservingnessヒューリスティックはイデオロギーを超越するか

本研究では,公的支援に関する判断に用いられるヒューリスティックとしてDeservingnessヒューリスティックに注目した。社会保障に関する判断を求められたとき ,人は困窮者の属性情報を手がかりとして利用する。これをDeservingnessヒューリスティックという。Deservingnessヒューリスティックはヒトに備わった生得的性質であり,政治的価値観を超越して機能するとされる。コンジョイント実験の結果,有権者は困窮者の「勤勉さ(怠惰さ)」や「不運さ」にまつわる属性をDeservingnessヒューリスティックとして用いやすいことがわかった。さらに,保守派とリベラル派とで手がかりとする属性に違いがあるかを検討したところ,タイムプレッシャーによる認知制限を設けた場合には,イデオロギーによる差異はみられなかった。本結果は支援に「値する(値しない)」困窮者像がイデオロギーを超越して共有されている可能性を示唆する。
(※本発表はオンラインで行われます)

17:00-17:40 山縣 芽生(大阪大学大学院人間科学研究科D3)

COVID-19流行下における忌避反応の時系列変化: 2020年1月から2021年11月の16波パネル調査に基づく検討

2020年から現在までも続くCOVID-19の世界的流行の中で,人々の心理・行動はどのように変化していったのだろうか。先行研究に基づけば,COVID-19流行の深刻化に伴って,脅威への忌避反応としての感染予防行動や外集団成員への排斥が線形的に増加することが予測される。しかし,2020年1月末から同年3月上旬までの時系列データを分析したYamagata et al.(2021)では予測とは異なる結果が得られ,2020年1月末で既に人々は緊張状態にあったことが明らかとなった。本研究では,その後の社会的状況が深刻化したことや,時系列変化をより構造的に捉えるために,Yamagata et al. (2021)のパネル調査を継続して約2年にわたる16波データでの検討を行った。主要な変数ごとに時系列推移が変化するポイントを検出した結果,第1回目の緊急事態宣言の発令直前から発令期間中(2020年3月~4月)と,感染流行第3波の直前(2020年11月)を起点に変化が見られた。本発表では,変化点前後のトレンドについて個人属性やCOVID-19の感染状況の観点から考察する。

2021年度「社会心理学会若手研究者奨励賞」の受賞

センターに所属する大学院生の岡田葦生さんが2021年度の「社会心理学会若手研究者奨励賞」を受賞しました。

こちらから、研究概要と受賞に際しての講評を読むことができます。

なお、岡田さんは申請時には京都大学大学院法学研究科に所属していましたが、2022年4月より関西学院大学大学院社会学研究科に進学し、社会心理学研究センターの一員となりました。

今後、社会心理学と政治学を架橋する研究を進められることを願っています。

第12回KG-RCSP合同ゼミ

KG-RCSP合同ゼミは,異なる学部の複数のゼミが集い,メンバーの研究発表と外部ゲストの講演を交えた「多様性と類似性の相乗効果」の場です.毎回,ゼミメンバーの発表に加えて,興味深い研究をしておられる 「今,この人の話を是非聴きたい+学生たちに聴かせたい」と思える研究者をお招きして講演もしていただいています.聴講・議論への参加は,ゼミ内外,学部生/大学院生/職業研究者等々を問わず,どなたでも歓迎します.

第12回目となる今回は,学生6名が自身の研究成果や研究計画を発表するとともに,齋藤僚介氏(大阪大学大学院人間科学研究科・日本学術振興会特別研究員)をお招きして行います.

【日時】2022年3月4日(金) 13:30-18:30(予定)
【場所】オンライン(Zoom)での開催


新型コロナウイルスの感染拡大が続いている状況を鑑み,今回の合同ゼミはオンラインで行います.参加には事前登録が必要です.

参加に際しては,以下のURLから事前登録をお願いします.登録承認後,「第12回KG-RCSP合同ゼミ確認」というタイトルでアクセス要領が書かれた返信メールが届きます.「ここをクリックして参加」をクリックするか,ZoomにアクセスしてミーティングIDとパスワードを入力して参加してください.

ご不明な点は稲増一憲(k-inamasu@kwansei.ac.jp)にお問い合わせください.

https://us06web.zoom.us/meeting/register/tZcqdeGuqzkiEtYIKIaecFMU-9CLUgMwPbca
ミーティングID:837 2865 2882

 


第1部:ゼミメンバーによる発表

13:30-14:00 井上 心太(関西学院大学社会学部B4(同大学院社会学研究科進学予定))
認知課題を用いた親密さ測定法の提案

本研究の目的は、認知課題を利用した新たな親密さの測定法を提案することである。従来、親密さを測定するために様々な尺度が開発されてきた。しかし、これらの尺度について、自己評定式尺度であるため測定結果にバイアスが生じること、親密さを測定する尺度の多くは、それが基盤とする理論に基づいた尺度作成がされていないこと、といった問題点が挙げられている。そこで本研究では、Aron, Aron, Tuder, & Nelson(1991)のInclusion of Other in the Self(IOS)の観点から、認知的な連合として親密さを測定する方法を提案することでこの問題を解決する。本研究ではDrift Diffusion Modelを利用し、測定の際に生じる非決定時間や慎重さといったバイアスを取り除き、親密さを表すと考えられる純粋な連合を測定した。三つの研究をおこなった結果、認知課題によって測定された親密さは、質問紙で測定された親密さ得点と有意に相関することが示された。

14:00-14:30 中川令美(関西学院大学文学部B4(同大学院文学研究科進学予定))
視覚統計学習における事象間の共通性の役割

本研究では,視覚的規則性の学習が課題切り替えによってどのように変化するかについて検討した.学習フェーズでは,参加者は呈示されたシーン画像に対して,シーンカテゴリ判断課題またはシーン内に人がいるかどうかを判断する課題を,試行ごとにランダムに切り替えながら行った.このとき刺激系列は,常に連続して出現する2枚ずつの画像ペアから構成されていた.テストフェーズでは学習フェーズにおいて呈示されていたターゲットペアと呈示されなかったフォイルペアについて二択の強制選択課題を行わせ,刺激系列が学習されているかどうかを検討した.その結果,画像間で多くの特徴を共有するペアにおいて,より強く統計学習が生起した.さらに課題切り替えや反応生成のタイミングを変えることで,抽出される特徴が変化した.本研究の結果は,連続する事象間における特徴の共通性が視覚統計学習のパフォーマンスを変化させることを示している.

14:30-15:00 田島 綾乃(関西学院大学大学院社会学研究科M2)
オタクの自己開示の状況と自己呈示方略の検討

オタクと呼ばれるアニメ・マンガ・ゲームを愛好する人々は、年々増加し今や少数派とは言えなくなっている。しかし、オタク趣味を持つことを他者から隠そうとする行動がオタクたちの中に散見される。本研究の目的は、オタクが自己開示を行う状況によって趣味開示の程度は異なるのか、そして自己紹介時における自己呈示方略について検討するものである。調査では、自己紹介場面を不確実性高条件、不確実性低条件 (オタク有)、不確実性低条件 (オタク無) と設定し、各条件においてどの程度オタク趣味を開示するか、web調査実験を行った。結果、すべての条件において趣味の開示得点に差が見られ、不確実性が高い状況において, 周囲にオタクがいない状況と同様, オタク趣味を話す程度が低くなることが示された。また、オタクが自己紹介の場面に遭遇した場合にどのような自己紹介を行うかについて自由記述で回答を求めた。結果、「一般人呈示型」「シグナル型」「様子見型」「オタク開示型」の自己呈示方略を用いることが示された。

(休憩)

15:10-15:40 岡田 葦生(京都大学大学院法学研究科D2(関西学院大学大学院社会学研究科博士後期課程進学予定))
政治忌避意識の心理的構造

近年の日本では投票率の低下が問題視されているが、日本の有権者の政治的消極性は投票参加のみにとどまらない、政治参加全体に及んでいる。こうした傾向の説明の一つに、政治性そのものを嫌う心理からこの現象を捉えようとする立場がある(西澤 2004)。一方で、この政治忌避意識の内容はどのようなものであるか、すなわち人々が具体的に政治のどのような側面を嫌っているかについては十分に解明されていない。本研究では自由回答データに対してトピックモデルを用いることで、この心理の質的多様性を描き出すことを試みた。その結果、政治忌避意識には既存の政治意識概念と重複する要素も多く含まれる一方で、それらとは異なる側面もいくつか含まれることが明らかとなった。本研究の結果は、人々の政治との向き合い方の理解と、それを踏まえた市民の政治的活性化に対して有用な示唆を与えるものである。

15:40-16:10 西辻 好花(神戸女学院大学人間科学部B4(大阪大学大学院人間科学研究科進学予定))
不公正世界信念と公正世界信念

公正世界信念とは、「正の投入には正の結果が伴う」といった、世の中の公正に関する信念である。対して、不公正世界信念とは、「世の中に公正は存在しない」という信念のことを指す。公正世界信念は、心の健康に正の関連があるとされており(Fatima & Suhail, 2010)、不公正世界信念は怒りや防衛的なストレスコーピングと正の関連があるとされている(Lench& Chang, 2007)。Lench & Chang(2007)の研究においては、不公正世界信念を測定する尺度が作成され、公正世界信念と負の関連があることが分かっている。しかし、Maes & Schmitt(1999)の多元的な尺度を用いて、公正世界信念と被害者非難との関連を検討した村山・三浦(2015)の研究においては、公正世界信念の一種である内在的公正世界信念と不公正世界信念は無相関となっている。日本における不公正世界信念と公正世界信念の関係を検討することを目的として、今後の研究を行っていく予定である。

16:10-16:40 李 葎理(追手門学院大学心理学部B4(大阪大学大学院人間科学研究科進学予定))
相対的剥奪と非就業状態の原因帰属との関連-公正世界信念の調整効果の検討-

相対的剥奪とは,人が自身と類似した他者と比較して,奪われていると感じることを指す。この傾向が強い人は,自分よりも立場の弱い人々に対して攻撃的になることが,先行研究によって示されてきた。本研究の目的は,個人的な相対的剥奪(Personal Relative Deprivation: PRD)を感じている人が,非就業状態の原因を個人的な要因へと帰属させやすいのかどうかを検証することであった。また,相対的剥奪と原因帰属との関連における公正世界信念の調整効果についても,併せて検討を行った。オンライン調査会社に依頼し,19歳から34 歳の就業者400名を対象にデータを収集した。分析の結果,PRDの高さは,非就業状態の個人的帰属を有意に予測していた。しかし,PRDと公正世界信念の下位次元の交互作用は有意ではなく,公正世界信念は,PRDと非就業状態の原因帰属の関連を調整しなかった。これらの結果から,人は剥奪を感じたときに,個人を非難するような原因帰属を行うことによって,自己の回復を図る可能性が示唆された。

(休憩)

第2部:招待講演

17:00-18:30 齋藤 僚介 先生(大阪大学大学院人間科学研究科・日本学術振興会特別研究員)
ナショナリズムをめぐる社会問題の実証研究

近年、排外主義的社会運動やインターネット上での差別的書き込み等が社会問題となっている。この問題に対して、とりわけ注目されてきたのがナショナリズムである。一方で、近年のナショナリズムに関する先行研究によれば、ナショナリズムは多様な類型として捉える必要があるとされる。そこで、本研究では、個人の意識としてのナショナリズムの類型と社会的文脈に着目して彼らのナショナリズムを伴う差別的行為の生成メカニズムを明らかにすることを試みた。本研究では、従来の社会運動論をミクロマクロリンクとミクロな理論としての合理的選択理論のもとで再構成した、K. Opp(2009)の社会運動の理論に依拠する。理論的な検討、および社会調査データの計量的な分析の結果、デマゴーグが受容されやすい2つの社会的条件のうち一方が成り立っている社会状況で、ネーションに全面的にアイデンティフィケーションするナショナリズムの持ち主に、権利問題がフレーミングされた場合に、そのうち正義感がある人々が排外主義的集合行為に参加しやすいことがわかった。

2021年度第23回日本社会心理学会学会賞(優秀論文賞)を受賞

関西学院大学大学院社会学研究科在籍時に当センターに所属していた志水裕美さん(現・株式会社インテージ)を第1著者とする以下の論文が,2021年度の「第23回日本社会心理学会学会賞(優秀論文賞)」を授賞しました.

志水裕美・清水裕士・紀ノ定保礼
社会経済的地位と怒り表出のメカニズム:心理的特権意識と正当性評価の媒介効果に注目して
社会心理学研究36巻3号

清水裕士教授の指導のもとで実施された修士論文研究をまとめたものです.修了・就職後も粘り強く着実に刊行に至るプロセスを遂行し,公刊のみならずこのたびの成果となりました.志水さん,おめでとうございました!

第11回KG-RCSP合同ゼミ

KG-RCSP合同ゼミは,異なる大学・学部の複数のゼミが集い,メンバーの研究発表と外部ゲストの講演を交えた「多様性と類似性の相乗効果」の場です.毎回,ゼミメンバーの発表に加えて,興味深い研究をしておられる 「今,この人の話を是非聴きたい+学生たちに聴かせたい」と思える研究者をお招きして講演もしていただいています.

第11回目となる今回は,学生4名が自身の研究成果や研究計画を発表するとともに,小林哲郎氏(香港城市大学)をお招きして行います.

【日時】2021年7月28日(水) 13:00-17:20
【場所】オンライン(Zoom)での開催


新型コロナウイルスの感染拡大が続いている状況を鑑み、今回の合同ゼミはオンラインで行います。参加には事前登録が必要です。

参加に際しては,以下のURLから事前登録をお願いします。登録承認後,「第11回KG-RCSP合同ゼミ確認」というタイトルでアクセス要領が書かれた返信メールが届きます。「ここをクリックして参加」をクリックするか、ZoomにアクセスしてミーティングIDとパスワードを入力して参加してください。

ご不明な点は稲増一憲(k-inamasu@kwansei.ac.jp)にお問い合わせください。

https://us06web.zoom.us/meeting/register/tZUlde2rrzIqGN3e-5lP8BFeu-mfADEKHDdz
ミーティングID:818 2431 9029


第1部:ゼミメンバーによる発表

13:05-13:45 水野景子(関西学院大学社会学研究科博士後期課程1年・日本学術振興会)
モデルに基づく社会的価値志向性の測定

本研究の目的は、社会的価値志向性 (SVO)の新たな測定法を提案し、再テスト信頼性と予測妥当性を検討することである。 自他の利得バランスに対する選好であるSVOの個人差は、実験ゲームや現実場面での協力行動の個人差を予測する。現在、SVOの測定には、連続量で利他性を測定でき、かつ向社会的SVOを平等志向と共同利益最大化志向に弁別できるSVOスライダー法 (SSM: Murphy, Ackermann & Handgraaf, 2011) が広く用いられている。しかし、SSMには、回答に一貫性がない回答者のSVOが向社会的SVOに分類されやすい (Bakker & Dijkstra, 2021) 問題や、利他性が不当に低く算出される問題がある。これらの問題は、SSMで仮定されている数理モデルが不適切なのではなく、SSMの課題および得点の算出方法が、仮定されている数理モデルのパラメータを算出するのに適していないことに起因すると考えられる。そこで本研究では、SSMで仮定されている数理モデルのパラメータを直接推定してSVO値とすることで、上記の問題を解決する。本研究の手法には、上記の問題を解決できるほか、向社会的SVOに分類される回答者以外についても、利他性と独立した指標として平等志向性を算出できる利点がある。3つの研究を行った結果、本研究で測定したSVOはSSMと同程度の再テスト信頼性を有し、インセンティブのある最後通牒ゲームの結果を予測できることが示された。

13:45-14:25 柏原宗一郎(関西学院大学社会学研究科博士前期課程2年)
自尊心IATの妥当性の検討 -課題の修正とモデリングによる検討-

本研究は、自尊心IAT (Implicit Association Test)の妥当性向上のために、課題修正とモデリングの観点から検討を行った。複数の先行研究において、質問紙で測定する自尊心とIATで測定される自尊心との間には、相関が低い又は見られないことが示されている(e.g. Ulrich, 2019)。単一の対象のみを用いるのSingle-Category IAT(SC-IAT; Karpinski & Steinman, 2006)では、相関が見られているが、日本人を対象とした調査では、これまで同様相関が見られていない。そこで、本研究は、参加者の名前やあだ名のみを自己の刺激語とするSC-IATを用い、質問紙で測定される自尊心との間に相関が見られるか検討を行った。結果、IATによって測定される自尊心得点と質問紙によって測定される自尊心得点の間に、相関が見られることがわかった。

(14:25-14:40 休憩)

14:40-15:20 温若寒(大阪大学大学院人間科学研究科博士前期課程2年)
オンライン脱抑制尺度の作成に関する研究

人間はオンライン世界に入ると、現実世界ではしないような行動をとることがよくある。このような現象について、Suler(2004)は「オンライン脱抑制効果」によるものとして説明している。しかしこれまでの先行研究では、オンライン脱抑制とは何かという構成概念が乱立しているという問題がある。概念的混乱により、人間のオンライン脱抑制の程度を的確かつ詳細に測定できるツールも開発されていない。そこで、本研究ではオンライン脱抑制の構成概念を再考・整理した上で、新たなオンライン脱抑制尺度を開発することを目的とする。まず、半構造化インタビューを行って、オンライン脱抑制についての経験を幅広く収集した。次に、著者が提案する新たなオンライン脱抑制の捉え方に基づいてインタビューの内容分析を行い、オンライン脱抑制尺度の予備尺度を作成した。現在は、予備尺度を用いた調査データを分析している段階である。本発表では、これまでの成果を報告するとともに、今後の方向性についても議論したい。

15:20-16:00 趙心語(大阪大学大学院人間科学研究科博士前期課程2年)
主観的社会階層がもたらすダブルモラルスタンダード―Wangら(2020)の追試的検討―

主観的社会階層が低い人は社会資源が少ないため利己的に行動し、自分より他者の利他行動を多く期待する(ダブルモラルスタンダード;Wang et al., 2020)。反対に、主観的社会階層が低い人は相互依存の生活環境に置かれるので利他的に行動する傾向があるという知見もある(Piff & Robinson, 2017)。本研究では独裁者ゲームを用い、そのどちらが正しいのかを検証した。351名の実験参加者が「自分条件」と「他者条件」にランダムに振り当てられた。自分条件の参加者は、金銭の分配場面で自分が受け手にいくら分配するかを回答した。他者条件の参加者はある架空の人が受け手にいくら分配するかを回答した。その結果、自分条件では主観的社会階層が低い人がより多くの金銭を分配した。つまり、主観的社会階層が低い人は、他者に期待するよりも「自分は利他的に行動すべきである」と考えていることがわかり、Piff & Robinson(2017)の説が支持された。

(16:00-16:15 休憩)

第2部:招待講演

日本語による講演です(The presentation will be given in Japanese.).

16:15 -17:15 Tetsuro Kobayashi (City University of Hong Kong)・Jaehyun Song (Kansai University)・Polly Chan (University of Oxford)

Preference falsification in authoritarianizing context: List experiments on the Hong Kong National Security Law

Preference falsification poses a threat to credible assessments of public opinion, especially in authoritarian societies. Extant studies have employed alternative question formats, such as list experiment, to elicit truthful responses and estimate the magnitude of preference falsification among critics of authoritarian regimes (e.g. China). However, little is known about preference falsification in “authoritarianizing” setting where political freedom and personal safety are being lost on an ongoing basis. By conducting two list experiments in increasingly authoritarian Hong Kong, we present a novel finding that loyalists, but not opposition members, significantly falsified their support for the Hong Kong National Security Law, a draconian institutional repression enacted in June 2020. Pro-establishment respondents in authoritarianizing contexts arguably anticipate tighter political control and believe that expressing politically “correct” through preference falsification helps avert political risks. Conversely, the absence of preference falsification among pro-democracy individuals might be explained by the psychological costs entailed by the suppression of their anti-government stances.

第28回KG-RCSPセミナー

インクルーシブ教育に対する消極的態度を規定する心理・社会的要因の分析」(前田楓氏、大阪市立大学大学院都市文化研究センター・日本学術振興会・安田女子大学

【日時】2021年7月3日(土) 14:00~16:00
【場所】Zoomでのオンライン開催
【発表者】前田楓氏(大阪市立大学大学院都市文化研究センター・日本学術振興会・安田女子大学

【概要】共生社会の実現を目指す近年の動きは、まさに国際的潮流の中にあり、我が国においても障害者差別解消法の施行等、障害のある人たちの社会的包摂が着実に進められています。とりわけ学校教育の現場では、従来の分離教育ないし統合教育から「インクルーシブ教育」への転換が目指されているものの、こうした時代の趨勢に人々の認識が追い付いているとは言い難い現状も伺えます。本発表では、発表者がこれまでに実施してきた複数の調査をもとに、現代社会を生きる人たちの間ではインクルーシブ教育に対する消極的な態度が垣間見える事実を示します。そのうえで、そうした消極的な態度を規定する心理・社会的な要因についてさまざまな角度から検討を加えた四つの研究――人々の障害の捉え方(障害観)に着目した研究(研究1)、学校教員の消極的な態度を規定する要因について検討した研究(研究2・3)、さらに、マクロ・レベルでの変数を扱うデータセットを用いて、インクルーシブ教育に対する態度と文化的特性の関連性を検討した二次分析(研究4)――をご紹介します。これらの研究知見をもとに現時点で解釈できること、さらには、発表者の今後の研究案につきましても皆さま方と議論できれば幸いです。

新型コロナウイルスの感染拡大が続いている状況を鑑み、今回のセミナーはオンラインで行います。参加には事前登録が必要です。

参加に際しては,以下のURLから事前登録をお願いします。アクセス要領が書かれた返信メールが届きます。ご不明な点は稲増一憲(k-inamasu@kwansei.ac.jp)にお問い合わせください。

https://us06web.zoom.us/meeting/register/tZItf-6spz8sHdzU3s-XYVNLcwPQJ4MjtIFG
860 8749 4678

登録完了後、「第28回KG-RCSPセミナー確認」というタイトルで確認メールが届きます。「ここをクリックして参加」をクリックするか、ZoomにアクセスしてミーティングIDとパスコードを入力して参加してください。

第27回KG-RCSPセミナー/第39回政治コミュニケーション研究会

「最不遇者への配慮を基軸とした分配的正義の実現可能性」(上島淳史氏・東北大学)

【日時】2021年4月26日(月) 15:00~17:00
【場所】Zoomでのオンライン開催
【発表者】上島淳史氏(日本学術振興会特別研究員PD(東北大学))

【概要】格差や貧困、公正な資源分配のあり方は世界的な関心を集める重要課題である。社会の分断に関する議論の高まりは、広く人々に配慮され、合意形成の基盤となる資源分配の原理を経験的に明らかにすることの重要を示唆している。本報告では、これまで報告者が行ってきた人々の分配判断に関する一連の実験室実験の結果を報告する。一連の実験では、不平等回避(inequality aversion)の中身を (1)「不平等そのものへの配慮」と (2)「最不遇者への配慮」の2要素に区別した検討を行った。実験の結果は、最不遇者への配慮は(不平等そのものへの配慮よりも)分配判断において中心的役割を担っていることを示していた。社会における最も恵まれない人への関心が、公正な資源分配原理について合意する際の共通基盤として機能する可能性について議論する。

今回のセミナーは政治コミュニケーション研究会との共催で開催します。

新型コロナウイルスの感染拡大が続いている状況を鑑み、今回のセミナーはオンラインで行います。参加には事前登録が必要です。

参加に際しては,以下のURLから事前登録をお願いします。アクセス要領が書かれた返信メールが届きます。ご不明な点は稲増一憲(k-inamasu@kwansei.ac.jp)にお問い合わせください。

https://us06web.zoom.us/meeting/register/tZMvcOioqj8tEtI9E_pSDjiFH1ZRXgR3DdX9
ミーティングID:872 7104 4786

登録完了後、「第27回KG-RCSPセミナー確認」というタイトルで確認メールが届きます。「ここをクリックして参加」をクリックするか、ZoomにアクセスしてミーティングIDとパスコードを入力して参加してください。