第16回KG-RCSP合同ゼミ

KG-RCSP合同ゼミは,異なる学部の複数のゼミが集い,メンバーの研究発表と外部ゲストの講演を交えた「多様性と類似性の相乗効果」の場です.毎回,ゼミメンバーの発表に加えて,興味深い研究をしておられる 「今,この人の話を是非聴きたい+学生たちに聴かせたい」と思える研究者をお招きして講演もしていただいています.聴講・議論への参加は,ゼミ内外,学部生/大学院生/職業研究者等々を問わず,どなたでも歓迎します.

第16回目となる今回は,センターメンバーが指導するうち大学院生(進学予定者を含む)6名が自身の研究成果や研究計画を発表するとともに,岩谷舟真さん(東京大学)をお招きした講演を行います.

対面のみの開催とします.ご参加に際して事前連絡は必要ありません.ご不明な点は稲増一憲(k-inamasu@kwansei.ac.jp)にお問い合わせください.

【日時】2024年3月6日(水) 14:00-17:40(予定)

【場所】関西学院大学西宮上ケ原キャンパス

14:00 センター長あいさつ

第1部:ゼミメンバーによる発表

14:05-14:25 武田 拓海(大阪大学人間科学部B4(同大学院人間科学研究科進学予定))
特性自尊心と拒絶の予期が説得的メッセージの受容に及ぼす影響

説得的コミュニケーション研究において、自尊心が低い者への説得効果は先行研究で一貫していない。本研究ではこれを説明する理論として、低自尊心者は他者から拒絶されるのを懸念するというソシオメーター理論に着目した。この理論に基づき、「低自尊心者は拒絶が予期されないときには説得効果が小さく、拒絶が予期されるときには説得効果が大きい」という仮説を立て、拒絶予期の有無を操作する実験でこれを検証した。その結果、仮説は支持されず、高自尊心者・低自尊心者ともに拒絶予期によってリアクタンスの喚起や説得者の好感度の低下が起こり、拒絶予期が説得効果を高めることはないことが示唆された。

14:25-14:45 星野匠映(関西学院大学文学部総合心理科学科B4(同大学院社会学研究科進学予定))
動的環境における意思決定モデルの検討―経験の忘却過程に基づいたベイズ推論モデルの構築―

本研究の目的は、動的環境における意思決定モデルとして経験の忘却過程を表現したベイズ推論モデルの妥当性を検討することである。従来のベイズ推論モデルは事後分布に全ての経験を蓄積するという特徴がある。この特徴によってベイズ推論モデルは変動を伴う環境下における人の推論を捉えることができない。動的環境における適応的な意思決定のメカニズムは、遠い過去の経験を忘却して直近の経験を重視することである。そこで本研究では時間的距離に応じて経験の影響力が低減する過程を数理的に表現することでベイズ推論モデルを拡張する。ベイズ統計モデリングによって、拡張したベイズ推論モデルといくつかの強化学習モデルを比較・評価した。拡張したベイズ推論モデルは従来のベイズ推論モデルでは捉えられなかった動的環境における意思決定を捉えることができた。また拡張したベイズ推論モデルに不確実性回避選好とリスク回避選好を組み込むことで人間の意思決定におけるバイアスを修正し、ベイズ推論モデルが優れた拡張性を持つことを示した。本研究は動的環境における意思決定プロセスの基礎的なモデルを提供することができた。

14:45-15:05 岡田葦生(日本学術振興会特別研究員・関西学院大学大学院社会学研究科D2)
政治を語る資格

政治行動への積極性と関連する主たる変数として、政治関心や政治の重要性といったものが挙げられる。しかし、日本では政治関心や政治の重要性の認知が高い反面、政治行動に対しては消極的という特異的な傾向が観察されている。本研究では、「政治に関わるためにはそれ相応の資格が必要だ」という個人差変数の影響を考慮することでこのパズルの解消を試みる。つまり、政治への関心は高く、その重要性は認識しているものの、政治に関わるためには十分な資質が必要だという価値観が政治行動の抑制に繋がっていると予測する。本報告ではこの政治関与の資格尺度のプレ調査に関する結果を報告する。

15:05-15:25 井上心太(関西学院大学大学院社会学研究科M2)
内集団ひいきにおける意思決定プロセスの検討

本研究の目的は、内集団ひいきに対して理論的に想定される2つの心理過程がどのようなプロセスで働くのを検討することである。内集団ひいきとは、人が自分の所属する集団の他者に対してより協力的・好意的にふるまう行動を指す。先行研究において内集団ひいきは大きく2つの観点から説明されてきた。一方は同じ集団の他者の得られる利得に対して動機づけられるという説明であり、もう一方は同じ集団の他者に協力すれば自分も同じ集団の他者から協力されるという信念によって引き起こされるという説明である。その中で、これら2つの心理過程が両立する可能性が指摘されている(e.g. Nakagawa et al., 2022)。そこで本研究ではそれぞれの心理プロセスを数理モデルによって表現し、人々の意思決定プロセスとしてより妥当なモデルを検討する。本研究では、分配の意思決定を利他性と平等性の二つのパラメータに切り分けることができる武藤(2006)のモデルを基盤とし、二つの心理過程がどのようにパラメータに影響を与えるのかを表現するモデルを複数作成・比較した。そして、実験によって得られたデータに基づくモデル評価の結果、二つの心理過程が条件に応じて排反的に働くこと、利他性だけでなく平等性が内集団ひいきの意思決定において重要な役割を果たすことが示された。

15:25-15:45 李 葎理(大阪大学大学院人間科学研究科M2)
非就業者への自己責任論に対する相対的剥奪の効果

本研究では,相対的剥奪 (他者と比較して不利な状況にあると認識することで生じる不快な体験が非就業者の自己責任論に与える影響を検討した。相対的剥奪感が強い人は,自分よりも立場の弱い人々に対して攻撃的になることが先行研究によって示されてきた。本研究では,シナリオを用いた操作 (研究1,研究2),課題への報酬額を用いた操作 (研究3) という複数の実験的手法を通して,相対的剥奪が非就業状態の原因を当該個人に帰属する傾向を強めるかどうかを検討した。また,3つの研究を通して,操作により急性で喚起された相対的剥奪と,尺度で測定する個人差としての慢性的な個人的相対的剥奪感という違いが,非就業の自己責任論に異なる影響を及ぼすのかに着目した検討も行った (研究1―3)。本研究の結果,いずれの相対的剥奪の操作も非就業の自己責任論へ及ぼす影響は見られなかった。個人差としての相対的剥奪感は非就業者の自己責任論と正の関連をもつことが示唆されたが,サンプルの属性,もしくは尺度呈示のタイミングの違いによっては関連が見られなかった。相対的剥奪の個人差と操作の違い,今後の展望について議論した。

(休憩15分)

16:00-16:30 小林穂波(日本学術振興会特別研究員・関西学院大学文学研究科D3)
人間の視覚情報探索についての視覚採餌課題による探求

人間の行動には、知覚による探索が不可欠である。本研究は、人間が色や形などの視覚特徴に基づいて環境内の情報を探索することを視覚情報探索と呼び、探索の経験と連合学習による視覚情報探索の効率の変化を調べた。これまでの認知心理学における視覚情報探索の研究は、現実世界の表象の中で行われる探索を想定しており、表象内の探索を支える要因が、現実世界の探索をも同様に支えるかどうかは明らかではない。そこで、本研究では、動物が餌を探して食べる行動の理論である最適採餌理論の観点から視覚情報探索を捉えることで、探索主体と環境との相互作用を理解するための新たな枠組みの構築を目指して、2つの研究を実施した。これらの研究結果から、最適採餌理論を利用することで、環境の変化に応じて方略を変容させていく動的なシステムとして視覚情報探索を理解できる可能性を示した。今後、最適採餌理論に基づく同様のアプローチが利用されている意思決定研究や、主体と環境の相互作用の中に人間の心を位置づけるエナクティヴィズムの研究との統合と発展を通して、探索を中心とした新たな認知観の構築が期待される。

(休憩10分)

第2部:招待講演

16:40-17:40 岩谷舟真さん(東京大学大学院人文社会系研究科・助教)
多元的無知と文化:コロナ禍の社会に着目した検討

多元的無知状態とは、集団の1人1人は規範を支持していないが、「他の人は規範を支持しているだろう」と誤って互いに予想して、結果、集団の多くのメンバーが支持しない規範が集団で維持されている状態のことを言う。これまで、日本における相互協調性や男性の育休取得率の低さ、アメリカの大学における飲酒規範など、様々な規範が多元的無知状態で維持されていることが指摘されていた。一方で、多元的無知の文化差については十分検討されていない。本発表では、コロナ禍の日本社会において感染予防に関する規範が多元的無知状態で維持されている可能性を示唆する発表者らの研究結果を紹介し、それをアメリカ社会について論じた先行研究と比較する。最後に、多元的無知状態の維持メカニズムについて、文化や社会環境の差異に着目しながら整理することを目指す。